
飲食店で人を雇う手続き!大阪の最低賃金は1,231円
「アルバイトを雇うって、何を用意すればいいの?」「保険とか、よく分からないまま始めて大丈夫かな」。会社員から飲食店を始める方は、ここで手が止まりがちです。結論から言うと、人を雇う前に決めることは「何時間、いくらで働いてもらうか」を紙に書くことで、労災保険(仕事中のけがの保険)は1人雇うだけで必要です(厚生労働省)。会社員から飲食店を始めるAさん(架空)の人件費55万円を使って、順番に見ていきます。
この講座の位置づけ:創業計画書の第4欄「従業員」と、第9欄「事業の見通し」の人件費を書くための回です(第10回)。開業までの流れでいうと、開店の1〜2か月前の募集開始から、初出勤の日までにあたります。
前回は飲食店の消防届出は「工事前の相談」からでした。人件費の引き算は売上190万円で手元に残るのは?原価・人件費・家賃を引く、全体の見取り図は公庫の創業計画書、数字が苦手でも書ける順番をご覧ください。
全体の流れ
人件費の枠を
「時間」に直す
時給と
募集内容を決める
労働条件通知書を
渡す
労災・雇用保険の
手続き
初出勤
①Aさんの人件費55万円は、何時間分?
Aさん(架空)の計画では、人件費は月55万円です。本人の生活費を除いた、アルバイトなどへの支払いです。これを「時間」に直してみます。
大阪府の最低賃金(これより安く働かせてはいけない時給の下限)は、1,231円です。令和8年10月1日からの金額です(大阪労働局)。説明用に、時給1,231円ちょうどで計算します。
- 55万円 ÷ 1,231円 = 約446時間(1か月)
- 446時間 ÷ 営業25日 = 約17.9時間(1日)
つまり、1日あたりスタッフの働く時間の合計が約18時間まで、という枠です。昼と夜の2部営業で、昼に2人×3時間、夜に3人×4時間ならちょうど18時間、というイメージです。
| 項目 | 数字 | 計算 |
|---|---|---|
| 人件費(月) | 55万円 | Aさんの計画(架空) |
| 時給(説明用) | 1,231円 | 大阪府の最低賃金 |
| 月の働ける時間 | 約446時間 | 55万円 ÷ 1,231円 |
| 1日あたり | 約17.9時間 | 446時間 ÷ 25日 |
(出典:大阪府最低賃金|大阪労働局。金額は令和8年度の改正後のものです)
注意点が3つあります。
- 募集の時給は、最低賃金ぴったりでは人が集まらない場合があります。時給を上げると、働ける時間が減ります。
- 夜10時以降は割増賃金(通常の時給より高い)が必要になります(労働基準法)。夜に働いてもらう時間が長いほど、枠は減ります。
- 通勤手当や、会社が負担する保険料も、人件費に入れるかを先に決めます。Aさんは説明用に「55万円は給与の支払総額」と置いています。会社負担の保険料の料率は年度で変わるため、厚生労働省の最新ページで確認してください。
最低賃金は毎年、10月前後に上がります。最新の金額を大阪の最低賃金「1,231円」に正式決定、10月までの備えでも整理しています。時給を上げたときに採算ラインがどう動くかは大阪の最低賃金1231円に「飲食店の採算ライン」見直し方、時給のアルバイトと月給の社員で会社の負担がどう違うかは月給25万円の正社員 vs 時給1,700円のアルバイト、会社の本当のコストはどっちが高い?で詳しく書いています。
②創業計画書の「従業員」欄には何を書く?
第4欄は、従業員の人数や、常勤・パートの別などを書く欄です。様式は公庫の各種書式ダウンロード(国民生活事業)で確認できます。書き方のコツは、①で出した「時間」と、人数がつながっていることです。「月446時間分、アルバイト4人で回す」と書ければ、第9欄の人件費55万円と話が合います。
③採用が決まったら「労働条件通知書」を渡す
働く条件は、口約束にしないことが大切です。雇うときは、賃金や労働時間などの条件を、書面で渡すルールがあります。書面で渡す必要がある項目は、労働基準法施行規則で決まっています(厚生労働省)。厚生労働省のサイトに「モデル労働条件通知書」があるので、まずはそれを使うのが安全です。
令和6年4月から、労働条件を明示するルールが改正されています(厚生労働省)。必ず最新のモデル様式をダウンロードしてください。
書いておくこと(目安)は次のとおりです。細かい必須項目は、厚生労働省の様式で確認してください。
- ☐ 働く場所と、仕事の内容
- ☐ 始業・終業の時刻、休憩、休みの日
- ☐ 賃金(時給、締め日、支払日、割増の扱い)
- ☐ 契約期間(期間が決まっているか、更新があるか)
- ☐ 辞めるときの手続き
④保険は2種類に分けて考える
保険は、2つのグループに分かれます。
| 保険 | 内容 | 1人雇ったら必要か |
|---|---|---|
| 労災保険・雇用保険(労働保険) | 仕事中のけがの補償、失業したときの給付 | 労災は1人でも雇えば必要。雇用保険は働く時間などの条件で決まる |
| 健康保険・厚生年金(社会保険) | 病気やけがの医療費、年金 | 個人の飲食店か、法人かで変わる |
労働保険(労災・雇用保険)
労働者を1人でも雇うと、事業主は労働保険に入る手続きが必要です(厚生労働省)。窓口は、お店の場所を担当する労働基準監督署とハローワークです。手続きの期限や様式は変わることがあるため、窓口で確認してください。目安として、雇ってから約10日以内に最初の届出が必要とされています(厚生労働省の案内)。
雇用保険は、週の所定労働時間(契約で決めた働く時間)と、雇う期間の見込みで、加入するかが決まります。基準は見直されることがあるので、最新の基準は厚生労働省かハローワークで確認してください。
社会保険(健康保険・厚生年金)
日本年金機構の案内(2026年10月6日更新)では、次のように整理されています。
- 法人で開業する場合は、従業員が事業主1人だけでも、社会保険に入ることが必要です。
- 個人事業の場合は、常時5人以上の従業員がいる事業所が対象です。ただし、飲食店は、5人以上いても強制の対象になりません。
Aさんが個人で開くのか、会社(法人)を作って開くのかで、結論が変わります。この点は、開業の形を決めるときに、年金事務所か税理士に確認すると確実です。
採用の面接で、必ず聞いておきたいこと:「最低いくら稼ぎたいか」
時給を決めたら、面接で次のことを確認します。生活費の足しなのか、アルバイトで生計を立てているのか、そして最低いくら稼ぎたいかです。
私の経験では、アルバイトで生計を立てている人には「月に最低これだけは必要」という基準があります。その金額を払えないと、結局は辞めていきます。採用して研修をしたあとに辞められると、教える手間も、募集の費用も無駄になります。①で出した「月446時間」の枠に、希望の収入が収まるかを、採用の前に確かめてください。
大阪では、掛け持ちをしている人も多いと私は見ています。掛け持ちの場合、ほかの店の時給や働きやすさと、採用後も比べられ続けます。次の点に注意してください。
- 「土日に入れます」と言った人が、掛け持ち先でも同じことを言っていて、土日に人が集まらないことがある
- 大学生ばかりを雇うと、試験期間にまとめて人が足りなくなる
スタッフは、採用する人の層によって、ある程度の特性があります。1つの層に偏らせず、曜日や時期ごとに誰が入れるかを、面接のときに一覧にして確認しておくと安全です。
- ☐ 生計を立てているか、足しにしているかを聞いた
- ☐ 最低いくら稼ぎたいかを聞いた(枠に収まるか確認した)
- ☐ 掛け持ちの有無と、掛け持ち先の入れる曜日を聞いた
- ☐ 学生の場合は、試験期間やテスト前に休む時期を聞いた
- ☐ 曜日・時間帯ごとに、入れる人が偏っていないか確かめた
募集は「後回し」になりやすい。だから先に日付を決める
ここからは、法律の話ではなく、段取りの考え方です。内装や許可の手続きが先に進むと、スタッフの募集は後回しになりやすい項目です。気づくと開店まで1か月を切っている、ということが起こりえます。
そのとき困るのが、初めの数か月だけ人が足りず、本人が休めなくなることです。Aさんの利益33万円は、人件費55万円を払ったあとの数字です。人が集まらず、本人だけで回すと、その分の人件費は浮きますが、本人の時間が足りなくなります。
そこで、募集は、営業許可の申請(開店2〜3週間前)より前に始めるのがおすすめです。許可の流れは飲食店の営業許可の取り方!大阪市は開店2〜3週間前にを参考にしてください。募集してから働き始めるまで、面接や準備に時間がかかるからです。
今日のワーク
- 自分の人件費の枠(月◯万円)を、時給で割って「月の時間」に直す
- その時間を営業日数で割って、1日に何時間分のスタッフを置けるかを出す
- 募集の時給を決める(最低賃金以上)。時給を変えたとき、働ける時間がどう変わるかも見る
- 個人で開くか、法人で開くかを仮に決め、社会保険がどうなりそうかを年金事務所か税理士に聞く日を決める
- ☐ 人件費の枠を、月の時間に直した
- ☐ 大阪府の最低賃金(1,231円)を確認した
- ☐ 労働条件通知書のモデル様式をダウンロードした
- ☐ 労働基準監督署・ハローワークでの手続きの窓口を調べた
- ☐ 個人か法人かで、社会保険がどうなるかを確認した
次回予告
次回は、開店前後の集客です。創業計画書の「販売戦略」の欄に、何を書くかにつなげて見ていきます。
ここまでで書けるようになった項目
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 全体の見取り図 | 第1回でわかった |
| 売上高(月) | 第2回で掛け算で作れるようになった |
| 売上原価・経費・利益(月) | 第3回で引き算で出せるようになった |
| 家賃の上限と、物件探しの3条件 | 第4回で決められるようになった |
| 必要な資金(設備・運転)と調達方法の考え方 | 第5回で足し算で組み立てられるようになった |
| 契約のときに動くお金 | 第6回で5種類に分けて数えられるようになった |
| 内装費の見積書の読み方 | 第7回で項目に分けて比べられるようになった |
| 営業許可の流れ(事前相談→申請→検査) | 第8回で順番と時期がつかめた |
| 消防署への届出(相談→使用開始届) | 第9回で順番と時期がつかめた |
| 従業員の欄と、人件費の「時間」への直し方 | 今回、考え方がつかめた |
| 動機、略歴、お借入の状況など | これから順に学ぶ |
人を雇う前の物件探し・開業のご相談はこちら
大阪で飲食店の開業をご検討中の方、居抜き・スケルトンの貸店舗をお探しの方は、株式会社不動産スペースまでお気軽にお問い合わせください。「人件費の枠から、無理のない家賃と席数を考えたい」「資金の数字を持って、物件の相談をしたい」「人手が必要な席数・広さの物件を探したい」といったご相談にも対応します。物件を探す前の資金計画やエリア選びの段階からのご相談も承っております。
TEL:06-6195-8209
よくある質問
Q. アルバイトを1人だけ雇うときも、保険の手続きは必要ですか?
A. 労災保険は、1人でも雇えば必要です(厚生労働省)。雇用保険は、働く時間などの条件で決まります。窓口で確認してください。
Q. 最低賃金より、ちょっとだけ安くてもいいですか?「試用期間だから」と言われました。
A. いいえ。最低賃金は、大阪府で働く人に適用される下限です。大阪府は令和8年10月1日から1,231円です(大阪労働局)。
Q. 個人の飲食店でも、社会保険に入る必要がありますか。
A. 個人事業の飲食店は、従業員が5人以上でも強制の対象ではありません。法人は1人でも対象です(日本年金機構)。
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参考
- 大阪府最低賃金|大阪労働局
- 労働条件通知書(モデル様式)|厚生労働省
- 労働保険とはこのような制度です|厚生労働省
- 適用事業所と被保険者|日本年金機構
- 各種書式ダウンロード(国民生活事業)|日本政策金融公庫
※Aさんの数字は説明用の架空の例です。最低賃金、保険の加入条件、届出の期限や様式は変更されることがあり、最新情報は大阪労働局、労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所でご確認ください。
