
月給25万円の正社員 vs 時給1,700円のアルバイト、会社の本当のコストはどっちが高い?
月給25万円を払って正社員を採用してみたら、期待した働きをしてくれなかった。そんな経験がある経営者は少なくないはずです。一方で、「時給1,700円」という条件で求人を出したら、実は十分に良い人材が集まるかもしれない、と考えたことはありますか。
今は人を雇うこと自体のリスクが高い時代です。採用してみないと本当に活躍してくれるかは分からず、期待外れだったとしても簡単に契約を解消できるわけではありません。感覚や慣習ではなく、数字を見ながら「正社員とアルバイト、経営としてどちらが正しい選択か」を検討してみます。
比較の前提条件
アルバイト・正社員ともに月間労働時間を168時間(1日8時間×週5日×月21日)とし、同じ働き方をしたケースで比較します。
- 正社員:月給25万円(額面)、賞与は年2回・合計2ヶ月分(50万円/年)
- 社会保険料の自己負担:健康保険・厚生年金・雇用保険などを合わせて額面の約15%と仮定
- 会社負担の法定福利費(健康保険・厚生年金・雇用保険の会社負担分+労災保険+子ども子育て拠出金):賃金の約15.75%と仮定(東京都・協会けんぽ加入を想定した概算)
月給25万円の正社員、時給に直すといくらか
賞与を月割りにして時給換算すると、正社員の時給は次のようになります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 額面時給換算(賞与なし) | 約1,488円 |
| 額面時給換算(賞与込み) | 約1,736円 |
| 手取り時給換算(社会保険料控除後) | 約1,476円 |
賞与を込みにしても、額面ベースの時給換算は約1,736円です。「時給1,700円のアルバイトに払えますか」という問いは、実は「月給25万円の正社員に、実質いくら払っているか」とほぼ同じ水準の話だということが分かります。
経営者にとって本当に重要なのは「会社が払う総額」
働く側の手取りだけでなく、会社が法定福利費まで含めて実際に負担する総額で比較すると、次のようになります。
| 項目 | アルバイト(時給1,700円) | 正社員(月給25万円) |
|---|---|---|
| 月額賃金(額面) | 285,600円 | 250,000円 |
| 月あたり会社負担の法定福利費 | 44,982円 | 39,375円 |
| 年間賞与にかかる会社負担分 | ー | 78,750円 |
| 年間総人件費(会社が実際に払う総額) | 3,966,984円 | 4,051,250円 |
| 実質時給コスト(会社負担込み) | 約1,968円 | 約2,010円 |
同じ168時間働かせるなら、時給1,700円のアルバイトの方が正社員よりも会社の総コストはわずかに安くなります。厳密な損益分岐点は時給約1,736円で、これより低い時給でアルバイトを確保できれば、正社員雇用よりも会社の実質コストを抑えられる計算です。つまり「時給1,700円」というラインは、感覚的な水準ではなく、月給25万円の正社員とほぼ経営コストが並ぶ、根拠のある目安だということです。
損益分岐アルバイト時給(約1,736円)は、偶然にも正社員の「額面時給換算(賞与込み)」とほぼ同じ数字になります。これは、法定福利費率を給与・賞与に均一に掛けているためで、計算上の偶然ではなく必然です。自社の給与水準さえ分かれば、同じ考え方で自社の損益分岐時給をすぐに算出できます。
正社員の給与を上げるほど、アルバイト有利のラインも上がる
正社員の待遇を良くするほど、この損益分岐点は上がっていきます。基本給年収を300万円から400万円に引き上げた場合(月給約33.3万円、賞与は同じく年2ヶ月分で約66.7万円)で試算すると、次のようになります。
| 項目 | 基本給年収300万円 | 基本給年収400万円 |
|---|---|---|
| 会社総人件費(法定福利費込み) | 4,051,250円 | 5,401,667円 |
| 実質時給コスト | 約2,010円 | 約2,679円 |
| 損益分岐アルバイト時給 | 約1,736円 | 約2,315円 |
正社員に高い給与を払えば払うほど、アルバイトが有利になる時給の上限も上がっていきます。裏を返せば、月給25万円という水準は、決して安い買い物ではないということです。
数字以上に重い、「採用してみないと分からない」リスク
ここまでの試算は、正社員が期待通りに働いてくれることを前提にしています。しかし実際の採用では、この前提が崩れることこそが最大のコストになります。
正社員の月給25万円は、成果に関係なく毎月確実に発生する固定費です。採用してみたら期待した働きをしてくれなかった場合でも、日本の労働法制下では雇用契約の解消は簡単ではありません。求人広告費や面接工数といった採用コスト、教育にかけた時間も回収できないまま、固定費だけが積み上がっていきます。これは月給25万円という数字には表れない「見えないコスト」です。
一方、時給1,700円で実力のあるアルバイトスタッフを確保できれば、人件費は時給という変動費でコントロールでき、シフトの調整や人の入れ替えも柔軟に行えます。「良い人材が集まるかどうか」は求人条件や採用の見極め次第ですが、少なくとも一人あたりの失敗コストは正社員採用よりはるかに小さく抑えられます。
経営者としてどちらが正しいか
数字だけを見れば、月給25万円の正社員と時給1,700円台のアルバイトは、会社の実質コストという点でほぼ同水準です。同水準のコストなら、「採用してみないと分からない」という不確実性リスクを抱える正社員より、実力に応じて時給で報いながら柔軟に人を入れ替えられるアルバイト活用の方が、経営としてはリスクを抑えやすい選択だと言えます。
もちろん、店舗運営の中核を任せられる人材を育てたい場合や、長期的に安定した戦力を確保したい場合には正社員化にも意味があります。ただし「なんとなく正社員を雇う」のではなく、実質コストとリスクの両方を数字で比較したうえで判断することが、これからの採用戦略には欠かせません。
参考
本記事の「社会保険料の自己負担 約15%」「会社負担の法定福利費 約15.75%」という数字は、単一の資料にそのまま記載された数値ではなく、健康保険料率・厚生年金保険料率・雇用保険料率などを合算した概算です。内訳となる公式の料率表は以下から確認できます。
※健康保険料率は都道府県ごとに、また加入する健康保険組合によっても異なります。厚生年金保険料率(18.3%)は労使折半で全国一律ですが、健康保険料率・雇用保険料率は毎年度改定されるため、実際に試算する際は最新の料率表でご確認ください。
よくある質問
Q1. 社会保険料の前提(自己負担15%・会社負担15.75%)は、どんな会社にも当てはまりますか?
いいえ、あくまで概算です。実際の料率は年齢・居住地・業種、加入する健康保険組合(協会けんぽか組合健保か)などによって変動します。本記事の試算は東京都・協会けんぽ加入を想定したものなので、正確な数字は自社の給与計算資料や顧問社労士に確認することをおすすめします。
Q2. アルバイトも社会保険に加入させる必要がありますか?
週の所定労働時間・日数が正社員の4分の3以上の場合や、一定規模以上の企業で週20時間以上かつ月額賃金8.8万円以上などの条件を満たす場合、アルバイト・パートでも社会保険への加入義務が発生します。本記事の試算では月168時間(週5日×8時間)勤務を前提にしているため、アルバイトも正社員と同様に社会保険加入対象となる働き方を想定し、法定福利費を同じ料率で計算しています。
Q3. 正社員を雇うメリットはないのですか?
あります。長期的に店舗運営の中核を任せられる人材の育成、繁忙期以外も安定して稼働できる戦力の確保、対外的な信用力などは、時給制のアルバイトだけでは代替しにくい価値です。本記事は「コストの実額」を可視化することが目的であり、正社員雇用そのものを否定するものではありません。
Q4. 採用コストや教育コストは、この試算に含まれていますか?
含まれていません。この試算は月々の給与・賞与と法定福利費のみを比較したものです。求人広告費、面接にかかる工数、教育期間中の生産性の低さなど、採用・育成にかかる「見えないコスト」は別途発生します。特に正社員は契約解消のハードルが高いため、これらのコストを回収できないまま固定費だけが積み上がるリスクがある点に注意が必要です。
Q5. この試算を自社の採用判断にどう活かせばいいですか?
まずは自社の実際の給与水準・賞与制度・加入している社会保険料率を使って、同じ計算式(月給×(1+法定福利費率)、時給×労働時間×(1+法定福利費率))で実質コストを出してみることをおすすめします。そのうえで、正社員化すべきポジションとアルバイト・パートで十分なポジションを切り分けて考えると、感覚ではなく数字に基づいた採用戦略が立てやすくなります。
※本記事の試算は月168時間勤務、従業員側社会保険料率15%、会社側法定福利費率15.75%(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険・子ども子育て拠出金の会社負担分、東京都・協会けんぽ加入を想定)という一定の前提に基づく概算です。実際の金額は年齢、居住地、業種、扶養の有無、加入する健康保険組合の料率などにより変動します。
