
飲食店の運転資金は何か月分?売上5割でもつ月数で計算
「運転資金は何か月分あれば安心なのか」「開店したのに、お客さんが来ないまま資金が尽きたらどうしよう」。これから飲食店を始める会社員の方が、最後まで残る不安です。結論から言うと、公庫の書式などで確認できた範囲では、「何か月分あれば安心」という決まった基準は見つかりませんでした。そこでこの記事では、月数を暗記するのではなく、「売上が計画の5割・7割の月が続いたら、手元のお金は何か月もつか」を自分で計算する方法を、会社員から食堂を始めるAさん(架空)の例で見ていきます。私の経験では、開業して6か月以内に辞める方は一定数おられます。そうならないための備えが、この計算です。
この講座の位置づけ: 創業計画書の第8欄「必要な資金と調達方法」のうち、運転資金の中身を確かめる回です(第16回)。開業までの流れでいうと、物件を決める前から契約までの間に、最後にもう一度見直す数字です。第5回で「約2か月分」と仮置きした運転資金を、今回は別の角度から検算します。
前回までの流れは飲食店の席数は逆算で決める!客単価と回転数からと、開業資金は設備と運転の2つに分ける!Aさんは1,040万円です。全体の見取り図は公庫の創業計画書、数字が苦手でも書ける順番です。
全体の流れ
開店前に先に出ていくお金を数える
売上が伸びない月の赤字を出す
返済と生活費を足す
何か月もつかを割り算で出す
①運転資金は「開店前」から減り始める
運転資金とは、仕入れ・人件費・家賃など、店を回すために毎月出ていくお金のことです。第5回で見たように、売上が入るまでの「つなぎ」の役割があります。
ところが、つなぎは開店の日より前から減り始めます。お客さんが1人も来ていない段階で、次のような支払いが先に出ていくからです。
- 開店前に仕入れる食材や、試作の材料費
- 開店前に練習や研修をしてもらうスタッフの人件費
- 工事の期間中に家賃が発生していれば、その分の家賃(フリーレントの有無は店舗を借りる時に最初に出るお金|保証金・礼金・仲介手数料で見ました)
Aさんの場合は、次のように仮置きします(説明用の架空の数字です)。
| 開店前の出費(仮置き) | 金額 | 考え方 |
|---|---|---|
| 最初の食材の仕入れ | 28.5万円 | 月の原価57万円の半月分(57÷2) |
| 研修・準備のスタッフの人件費 | 27.5万円 | 月の人件費55万円の半月分(55÷2) |
| 合計 | 56万円 | 28.5+27.5 |
運転資金310万円から、この56万円を引くと、開店の日に残っているのは254万円(310−56)です。工事中の家賃は、フリーレントの有無で変わるため、この表には入れていません。自分の契約条件で足してください。
②売上が思うように伸びない月の「赤字」を出す
次に、開店した月の売上が、計画どおり(190万円)にはならない場合を考えます。ここでは3パターンで比べます。これは予測ではなく、「もしそうなったら」を確かめるための置き方です。
計算は第3回と同じです。原価は売上の30%、それ以外の経費は合計100万円(人件費55+家賃18+利息2+その他25)のまま動かさない、という簡単な置き方にします(実際は光熱費などが売上で多少動きます)。
| 売上の水準 | 月の売上 | 原価(30%) | 経費 | 月の利益 |
|---|---|---|---|---|
| 計画どおり(10割) | 190万円 | 57万円 | 100万円 | +33万円 |
| 7割 | 133万円 | 39.9万円 | 100万円 | −6.9万円 |
| 5割 | 95万円 | 28.5万円 | 100万円 | −33.5万円 |
売上が5割だと、利益は+33万円からマイナス33.5万円へと、66.5万円も落ちます。売上が半分になっても、家賃や人件費は半分にならないからです。
③返済と生活費を足す(ここを忘れる人が多い)
第3回で見たとおり、借入の返済元金と自分の生活費は、利益の中から出すものです。利益が+33万円ある月は、そこから出せます。でも、利益がマイナスの月は、返済と生活費も運転資金から出すことになります。
ここでは、返済の元金と生活費を合わせて月30万円と仮置きします(これも説明用の架空の数字です。実際の返済額は、借入額と返済期間で変わります。公庫の借入の条件は変更されることがあるため、最新の内容は公庫の窓口やページで確認してください)。
| 売上の水準 | 月の利益 | 返済・生活費(仮置き) | 毎月の持ち出し |
|---|---|---|---|
| 10割 | +33万円 | 30万円 | 持ち出しなし(3万円残る) |
| 7割 | −6.9万円 | 30万円 | 36.9万円 |
| 5割 | −33.5万円 | 30万円 | 63.5万円 |
売上が計画どおりでも、手元に残るのは3万円だけです。Aさんの計画は、最初から余裕が大きくないことが、この表から見えます。
④割り算で「何か月もつか」を出す
開店の日に残っている254万円を、毎月の持ち出しで割ります。
| 売上の水準 | 毎月の持ち出し | もつ月数(254万円÷持ち出し) |
|---|---|---|
| 10割 | なし | 資金は減らない |
| 7割 | 36.9万円 | 約6.9か月(6か月は持つが、7か月目に足りない) |
| 5割 | 63.5万円 | 4か月ちょうど |
売上が5割の月が続くと、Aさんの運転資金310万円は4か月で使い切ります。第5回で「約2か月分」と置いたのは、計画書の表を作るための最初の置き方でした。今回の見方で検算すると、売上が伸びない場合には心もとない、という結果になります。(Aさんの基本の数字、売上190万円・利益33万円・必要な資金1,040万円は、この記事では変えていません)
運転資金が足りないとわかったとき
足りなさそうなときの動き方は、大きく3つあります。
- 運転資金を厚くする:必要な資金の合計と、調達の表を作り直します。借りる額が変わるので、公庫の窓口で相談します。
- 毎月の固定の支出を下げる:家賃の上限を下げる、人の配置を見直すなどです。家賃の決め方は飲食店の家賃は売上のいくらまで?内見前に決める3条件にあります。
- 開店前の出費を絞る:仕入れや研修の量を見直します。
大阪の場合、ミナミ・キタなどの繁華街は家賃が重くなりやすいため、運転資金への影響も大きくなります。物件を決める前に、家賃を動かした計算を一度やっておくと安心です。
開店直後にお金が足りなくなる、よくある場面
「何か月分」の数字より、お金が動くタイミングに目を向けると、足りなくなる場面が見えてきます。
| 場面 | 何が起きるか |
|---|---|
| 開店前 | 仕入れ・研修・工事中の家賃が、売上より先に出る |
| 売上の立ち上がり | 計画の売上に届くまで、家賃や人件費は同じだけ出る |
| 入金の遅れ | カードやQRコード決済は、売上日と入金日にズレがある。入金日は決済サービスごとに違うので、契約先で確認する(飲食店の決済手数料、10年で倍増2.94%にも参考に) |
| 仕入れの支払い | 現金払いか、月末締めの後払いかで、手元のお金の動きが変わる(支払条件は後の回で扱います) |
| 返済と生活費 | 利益がマイナスでも、返済と生活費は出ていく |
人件費は、大阪府の最低賃金1,231円(令和8年10月1日〜、大阪労働局)で「何時間分か」に直すと、売上が低い月に減らせる余地を確かめられます(飲食店で人を雇う手続き!大阪の最低賃金は1,231円)。
今日のワーク
- 自分の月の支出(原価・人件費・家賃・利息・その他)を足して、毎月の支出を出す
- 開店前に出ていくお金(仕入れ・研修・工事中の家賃)を書き出して、運転資金から引く
- 売上が7割・5割のときの月の利益を、引き算で出す
- 返済額と生活費を足して、「もつ月数」を割り算で出す
- ☐ 開店前に出ていくお金を、運転資金から引いた
- ☐ 売上が7割・5割のときの赤字を計算した
- ☐ 返済と生活費を、毎月の持ち出しに足した
- ☐ 「何か月もつか」を割り算で出し、足りないときの動き方を決めた
次回予告
次回は、第8欄の資金を調達する話として、公庫の融資の流れと、面談で聞かれることを見ていきます。ここまでの数字が、面談でどう使われるかをつなげます。
ここまでで書けるようになった項目
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 全体の見取り図 | 第1回でわかった |
| 売上高(月) | 第2回で掛け算で作れるようになった |
| 売上原価・経費・利益(月) | 第3回で引き算で出せるようになった |
| 家賃の上限と、物件探しの3条件 | 第4回で決められるようになった |
| 必要な資金(設備・運転)と調達方法の考え方 | 第5回で足し算で組み立てられるようになった |
| 契約のときに動くお金 | 第6回で5種類に分けて数えられるようになった |
| 内装費の見積書の読み方 | 第7回で項目に分けて比べられるようになった |
| 営業許可の流れ(事前相談→申請→検査) | 第8回で順番と時期がつかめた |
| 消防署への届出(相談→使用開始届) | 第9回で順番と時期がつかめた |
| 従業員の欄と、人件費の「時間」への直し方 | 第10回で考え方がつかめた |
| 販売ターゲット・販売戦略と、集客の時期 | 第11回で考え方がつかめた |
| 創業の動機(第1欄) | 第12回で3つの問いで書けるようになった |
| 経営者の略歴等(第2欄) | 第13回で事実の書き出しと言い換えで書けるようになった |
| お借入の状況(第7欄) | 第14回で残高と年間返済額で書けるようになった |
| 業態・コンセプトと席数(第3欄) | 第15回で4つの言葉と割り算で決められるようになった |
| 運転資金の検算(第8欄) | 今回、売上が伸びない月が続いたときの「もつ月数」で確かめられるようになった |
| 公庫の融資の流れなど | これから順に学ぶ |
計画づくり・物件探しのご相談はこちら
大阪で飲食店の開業をご検討中の方、居抜き・スケルトンの貸店舗をお探しの方は、株式会社不動産スペースまでお気軽にお問い合わせください。「この家賃で、運転資金は何か月もつのか数字を持って相談したい」「家賃の上限を決め直したい」「創業計画書を作る前の資金計画から相談したい」といったご相談にも対応します。物件を探す前の資金計画やエリア選びの段階からのご相談も承っております。
TEL:06-6195-8209
よくある質問
Q. 「運転資金は何か月分あれば安心」という決まりはありますか?
A. 私が確認できた範囲では、公庫の書式ページなどに決まった月数の基準は載っていませんでした。自分の支出と返済で計算するのが確実です。
Q. 「開店したのに、お客さんが来なかったらどうしよう」と怖くなります。何を準備すればよいですか?
A. 売上が7割・5割の月が続いたらどうなるかを、先に計算しておくことです。もつ月数が見えれば、運転資金を増やすか、家賃を下げるかを決められます。
Q. 運転資金を多く借りれば、それで安心ですか?
A. 借りた分は返済が増え、毎月の持ち出しも増えます。借りられる額は審査で決まるため、必要額と返済のバランスを公庫の窓口で相談してください。
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参考
- 各種書式ダウンロード(国民生活事業)|日本政策金融公庫
- 創業計画書セルフチェックリスト(2023年版)|日本政策金融公庫
- 新規開業に関する調査|日本政策金融公庫
- 令和8年度 大阪府最低賃金|大阪労働局(厚生労働省)
- 飲食店の決済手数料、10年で倍増2.94%に|店舗市場
※Aさんの数字(開店前の出費56万円、返済・生活費30万円、売上5割・7割のパターン)は説明用の架空の例で、予測や業界の基準ではありません。「何か月分」の公的な基準は確認できていません。公庫の様式、相談窓口、融資の条件は変更されることがあり、最新情報は公庫のページでご確認ください。
