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「相続人と連絡が取れない」実家の名義変更の進め方

相続・空家

四谷 義仁

筆者 四谷 義仁

不動産キャリア20年

飲食店専門の不動産会社「株式会社不動産スペース」代表。不動産キャリア20年。大阪・京都・兵庫エリアを中心に、店舗仲介・管理・閉店サポートから収益物件の売買まで手がける。これまで数多くのカフェ・居酒屋・ラーメン店などの開業支援を行い、実際の経営数値や現場課題をもとに"リアルな店舗経営の見える化"を発信中。現場の泥臭さも、数字のシビアさも知る「現実派不動産屋」

実家を相続したけれど、相続人のうち一人と連絡が取れない——この状態でも、手続きが完全に止まるわけではありません。ただし、進められることと進められないことがはっきり分かれます。この記事では、住所の調べ方、相続登記をどこまで単独でできるか、それでも見つからないときに家庭裁判所で使える3つの手続きを、順番に整理します。

相続人が一人欠けた協議書は無効です

まず前提として、遺産分割(遺産の分け方を決めること)は相続人全員の合意が必要です。一人を抜かして作った遺産分割協議書は無効で、それを使って名義を一人のものにすることはできません。

ただし、法定相続分どおりの相続登記であれば、相続人の一人から単独で申請できます。法律で決まった取り分のまま、全員の共有名義にする登記です。これで名義を亡くなった方から動かすことはできます。

問題はその先です。共有名義になった不動産を売るには、原則として共有者全員の実印と印鑑証明書が必要になります。つまり、名義変更は進められても、売却は止まるということです。

2024年4月1日から使える「相続人申告登記」

自分が相続人であることを法務局に申し出る簡単な手続きで、持分までは登記されません。他の相続人全員を調べ切る必要がなく、申し出た人は相続登記の申請義務を果たしたとみなされます。相続登記は3年以内が義務で、正当な理由なく違反すると10万円以下の過料(罰金のようなもの)の対象になるため、話し合いが止まっている間の「とりあえずの一手」として使えます。ただし義務を果たしたことになるのは申し出た人の分だけで、連絡が取れない相続人の義務まで消えるわけではありません。

まず住所を調べる4つのステップ

①
戸籍で相続人を確定
→
②
戸籍の附票で住所をたどる
→
③
手紙を出す
→
④
それでも不明なら家庭裁判所

実務では、③の手紙で連絡がつくケースが少なくありません。順番を飛ばさないことが大切です。

②の「戸籍の附票(こせきのふひょう)」は、その戸籍にいる人の住所の移り変わりが記録された書類です。相続の手続きに必要であることを窓口で伝えれば、他の相続人の分を請求できる場合があります。市区町村によって扱いが異なるため、電話で確認してから行くと二度手間になりません。

2024年(令和6年)3月1日からは、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍証明書を取れる「広域交付」が始まりました。ただし3つの注意点があります。

  • 取れるのは自分・配偶者・親や祖父母・子や孫の分で、兄弟姉妹の戸籍は対象外です
  • 郵送や代理人による請求はできず、本人が窓口へ行く必要があります
  • コンピュータ化されていない古い戸籍・除籍は対象外です

兄が音信不通というケースでは、兄の戸籍そのものは広域交付で取れません。本籍地の市区町村へ請求することになります。なお、住民票の除票や戸籍の附票の除票は、以前は5年で廃棄されていましたが、保存期間が150年に延長されています。何十年も前に家を出た人でも、住所の履歴をたどれる可能性があります。

手紙を出す前にそろえておくもの

  • ☐ 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)
  • ☐ 相続人全員の戸籍謄本
  • ☐ 相続人全員の住民票または戸籍の附票
  • ☐ 不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書
  • ☐ 預貯金の残高証明書または通帳の写し
  • ☐ 遺産の一覧表(遺産目録)

相手は何十年も実家に関わっていないことが多く、何がどれだけあるのか分かりません。「親の不動産」を全部調べる3つの方法|名寄帳と新制度で紹介した名寄帳を使って遺産目録を作り、手紙に同封すると話が早く進みます。

それでも見つからないときの3つの手続き

相手の状況 使う手続き 申立先 申立ての印紙代
住所は分かるが話し合いに応じない 遺産分割調停 相手方のうち一人の住所地の家庭裁判所 被相続人1人につき1,200円
住所が分からず行方不明 不在者財産管理人の選任 不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所 800円
7年以上生死が分からない 失踪宣告 不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所 800円+官報公告料5,298円

※印紙代のほかに連絡用の郵便切手が必要です。官報公告料5,298円の内訳は、失踪に関する届出の催告3,359円と失踪宣告1,939円です。

住所が分かっていて返事がないだけなら、まずは調停です。進め方は遺産分割協議がまとまらない時、調停・審判への進み方でご説明しています。

住所も生死も分からない場合は、不在者財産管理人(行方不明の人の代わりに財産を管理する人)を選んでもらい、その管理人と遺産分割を進めます。ここで知っておきたいのが費用です。申立ての印紙は800円ですが、管理人の報酬などを本人の財産から払えないときは、申立てをした人が予納金を納めます。家庭裁判所の手続案内では30万円から50万円という説明もあれば、事案に応じて60万円から100万円程度という説明もあり、金額は裁判所と事案によって変わります。本人の財産が少なければ、戻ってこない部分が出ることもあります。

さらに、管理人が遺産分割協議に応じるには、家庭裁判所の「権限外行為許可」が別に必要です。管理人の権限はもともと財産を今のまま維持することが中心で、遺産を分けるのはその範囲を超えるためです。許可の申立てには遺産分割協議書の案や遺産目録を出します。

生死が7年間分からない場合は失踪宣告も選べます。期間が満了した時に亡くなったものとみなされる制度です(事故や災害に遭った場合は、危難が去ってから1年)。ただし、その人に子がいればその子が相続人になり、関係者が増えることもあります。なお、相続人がまったくいない・一人も見つからないケースは別の制度になります。「相続人がいない空き家」はどうなる?相続財産清算人の仕組みをご覧ください。

10年を過ぎると「分け方」が変わります

2021年(令和3年)の民法改正で、相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割は、原則として法定相続分によることになりました(民法904条の3、2023年4月1日施行)。生前にまとまったお金を受け取っていた人(特別受益)や、親の介護に尽くした人(寄与分)の事情を反映できなくなります。10年経つ前に家庭裁判所へ分割を請求していた場合などは例外です。

施行日より前に始まった相続には猶予期間が設けられていますが、放置している間に相続人がさらに亡くなれば、話し相手は子や孫へと増えていきます。「数次相続」で空き家の共有者が増える前に知るべきことでも触れたとおり、人数が増えてからでは手紙を出す相手を探すだけで数か月かかります。動くのが早いほど、費用も手間も小さくて済みます。

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よくある質問

Q. このまま放っておいたら、実家はどうなるんでしょうか。
A. 名義は亡くなった方のまま残り、売ることも貸すこともできません。相続登記の義務違反として10万円以下の過料の対象にもなります。

Q. 連絡が取れない兄の戸籍を、最寄りの市役所で取れますか。
A. 取れません。広域交付の対象は自分・配偶者・直系の親族の分までで、兄弟姉妹の戸籍は本籍地の市区町村へ請求します。

Q. 不在者財産管理人を選んでもらえば、実家を自分の名義にできますか。
A. 管理人を相手に遺産分割はできますが、家庭裁判所の権限外行為許可が必要で、行方不明の方の取り分にも配慮した内容が求められます。

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