
「認知症の相続人」がいる遺産分割は後見人が必要
相続人の中に認知症の人(判断する力が十分でない人)がいると、家族だけで実家の遺産分割協議をまとめることはできません。家庭裁判所に「成年後見人」を選んでもらい、その人に本人の代わりに話し合いへ入ってもらうのが基本です。しかも、いったん始めると遺産分割が終わっても後見は続きます。この記事では、その流れと注意点をやさしく整理します。
「母は施設にいて、話が通じない。実家を売りたいのに、誰がハンコを押せばいいの?」「家族だから、私が代わりに署名してしまえば早いのでは?」。そんなご相談は少なくありません。しかし、代わりの署名は後で無効になるおそれがあり、売却も名義変更もやり直しになります。
家族の代筆がダメな理由
遺産分割協議は、相続人全員が内容を理解して同意することで成り立ちます。判断する力が十分でない人が参加した協議や、家族が勝手に署名した協議書は、有効と認められないおそれがあります。実家の名義変更(相続登記)も売却も、全員分の有効な同意がなければ進められません。
動き出す順番
診断書などをそろえる
家庭裁判所へ申立て
後見人が選ばれる
後見人が協議に参加
協議書を作り名義変更・売却
- 申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行うのが基本です。申立人は、本人や配偶者、4親等内の親族などです。
- 費用は、申立手数料が収入印紙800円分です(出典:後見人等の選任の申立て|裁判所)。このほかに、登記手数料2,600円分の収入印紙と郵便料(切手や予納金)が必要です。郵便料は裁判所ごとに違います。医師の鑑定が必要になると、富山家庭裁判所の案内では5万円〜7万円程度の現金がかかります(出典:成年後見制度|富山家庭裁判所)。金額は申立先の裁判所で確認してください。
- 申立てから選任までにかかる期間は、裁判所の案内に具体的な月数がありません。余裕を持って動きましょう。
ここが落とし穴:3つの注意点
申立てのときに「後見人候補者」(私がなりたい、という人)を書けますが、家庭裁判所が第三者の関与が必要と判断すると、候補者とは別の人が選ばれることがあります。
出典:成年後見人等の選任|裁判所
後見人は本人を守る立場です。そのため、本人の取り分を、民法で決まっている割合(法定相続分)より少なくする分け方には、同意しにくいとされています(税理士・司法書士の解説による。公式の基準ではないため、実際の扱いは家庭裁判所や専門家に確認してください)。「母は施設代だけ分かればいいから、実家は全部私が」という分け方は、そのままは通りにくいと考えておきましょう。
出典:成年後見人と遺産分割の解説|ht-tax.or.jp
実家の話し合いが終わっても、後見は終わりません。本人が亡くなるか、判断する力が回復するまで続きます。また、申立ての取下げにも家庭裁判所の許可が必要です。「実家の手続きのためだけ」と軽く考えず、家族で話し合ってから申し立てましょう。
出典:後見(保佐、補助)開始の申立ての手引|横浜家庭裁判所、成年後見等申立ての手引|長崎家庭裁判所
後見人も相続人のとき
たとえば、父が亡くなり、母(認知症)と子が相続人になるケースです。子が母の後見人になること自体はできます(ただし、誰が選ばれるかは家庭裁判所が決めます)。しかし、父の遺産分割では母と子の取り分が対立します。この協議のときだけ、子は母の代理をできず、家庭裁判所が選んだ「特別代理人」が母の代わりに協議へ参加します。後見監督人(後見人をチェックする人)がいれば、その人が代理するので特別代理人は不要です(出典:成年後見人等の選任|裁判所)。
準備チェックリスト
- ☐ 認知症の相続人の診断書や、判断力の状態が分かる資料があるか
- ☐ 相続人全員と、後見の申立てについて話し合ったか
- ☐ 後見人候補者を決めたか(選ばれない場合があることを理解したか)
- ☐ 遺産分割協議書の案(本人の取り分を含む)を考えたか
- ☐ 申立先の家庭裁判所に、費用と必要書類を確認したか
- ☐ 実家の固定資産税や管理の負担を、手続きの間だれが立て替えるか決めたか
制度の見直しが決まっています
2026年6月に、成年後見制度を見直す民法の改正法が成立し、同月24日に公布されました。後見と保佐を補助に一元化する内容で、施行は公布から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日です(出典:民法等の一部を改正する法律|法務省)。まだ始まっていませんので、今はこれまでの制度で進めるのが基本です。認知症の親が実家の持ち主だったときは認知症の親の実家は売れる?成年後見と2026年改正も参考になります。
協議の基本は遺産分割協議はいつまで?進め方と「もめないコツ」、未成年の相続人がいる場合は「未成年の子が相続人」遺産分割は親だけで決められない?をご覧ください。相続登記の期限(不動産を取得したと知った日から3年以内)に間に合わないときは、相続人申告登記という方法もあります。
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よくある質問
Q. 認知症の母の代わりに、私が署名してもいいですか?
A. 勝手な代筆は有効と認められないおそれがあります。家庭裁判所で後見人を選んでもらう手続きが必要です。
Q. 実家を売るためだけに後見人をつけて、売ったあとに外せますか?
A. 原則として外せません。本人が亡くなるか、判断力が回復するまで続きます。取下げも家庭裁判所の許可が必要です。
Q. 後見人は、私(長男)が必ずなれますか?
A. 候補者として書けますが、家庭裁判所が別の人を選ぶことがあります。選ばれ方は裁判所の判断です。
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