
「スケルトン」の落とし穴、ダクト・トイレで100万円差
飲食店の新規出店で初期費用を大きく左右するのが、内装・設備を一から作る「スケルトン物件」を選ぶか、前のお店の設備が残る「居抜き物件」を選ぶかです(両者の基本的な違いはこちらの記事でも詳しく解説しています)。結論から言うと、居抜きは初期費用を数百万円単位で抑えられる可能性がある一方、「安いから」という理由だけで飛びつくと、かえって高くつくこともあります。
居抜きとスケルトン、そもそも何が違うのか
「スケルトン」「居抜き」という言葉は不動産の現場でもよく使われますが、実はこの2つだけで説明できるほど単純ではありません。特に「半スケルトン」と「半居抜き」の境目は、人によって認識がバラバラなことが多く、ここでの勘違いがそのまま費用感のズレにつながります。まずは4段階に分けて、それぞれの状態を整理しておきましょう。
- スケルトン:床・壁・天井がすべて取り払われ、コンクリートがむき出しになっている状態。文字通り「箱だけ」で、床・壁・天井から作る必要があります。
- 半スケルトン:シンクや冷蔵庫などの動産、カウンターなどの造作物は撤去されていますが、床・壁・天井はそのまま残っています。ダクト・トイレ・エアコンについては、残っている物件とそうでない物件があり、ここは物件ごとに確認が必要なポイントです。
- 半居抜き:カウンターなどの造作物は残っていますが、コンロや冷蔵庫といった動産(厨房機器)に加え、座席や机も基本的には残っていません。トイレは残っていることが多い一方、ダクト・エアコンについては半スケルトンと同様に物件によって残っている場合とそうでない場合があります。
- 居抜き:前のお店が使っていた冷蔵庫などの厨房機器(動産)が残っている状態を指しますが、居抜きの中でもエアコン・座席や机・厨房機器そのものについては、物件(前のテナントの退去状況)によって、すべて残っている場合もあれば一部だけという場合もあります。
| 項目 | スケルトン | 半スケルトン | 半居抜き | 居抜き |
|---|---|---|---|---|
| 床・壁・天井 | × | ○ | ○ | ○ |
| ダクト | × | △ | △ | ○ |
| トイレ | × | △ | ○ | ○ |
| エアコン | × | △ | △ | △ |
| カウンター等の造作 | × | × | ○ | ○ |
| 座席・机 | × | × | × | △ |
| 厨房機器(動産) | × | × | × | △ |
○=残っている △=物件による(残っている場合とない場合あり) ×=残っていない
このうち、特に混同されやすいのが「半スケルトン」と「半居抜き」です。どちらも「一部だけ残っている」状態である点は同じですが、残っているのが「動産(厨房機器など)」なのか「造作(内装・設備工事でつけたもの)」なのかがまったく違います。半スケルトンだと思って内見したのに、実は座席や造作カウンターまで残る半居抜きだった(あるいはその逆)、ということが起きると、想定していた初期費用と実際にかかる費用が大きくズレてしまいます。物件を検討する際は、「今この物件は4段階のどこに当たるのか」を、不動産会社や貸主に必ず具体的に確認することが大切です。
もう一つ、実務でよく起きるズレが「スケルトン」と「半スケルトン」の間です。不動産・建築の世界で「スケルトン」というと、床・壁・天井もない状態を指すのが一般的です。ところが、飲食店のオーナー様に「スケルトンからでも大丈夫ですか」とお聞きすると、「大丈夫です」と答えていても、実際にはダクト(排気・排煙の配管)やトイレ、エアコンは残っている物件を想定しているケースが少なくありません。
このズレは、金額に直結する大きな確認ポイントです。トイレやダクトをゼロから作る場合、それぞれ100万円単位で施工費が変わってきます。「スケルトンでもいい」と考えている物件が、本当にカウンターなどの造作物はもちろんのこと、ダクト・トイレまでない状態なのか、それともダクト・トイレは残っている「半スケルトン」なのかで、想定していた予算が大きく崩れることがあります。物件を検討する段階で、この点は必ず具体的に確認しておくべきです。
居抜きが初期費用を抑えられる理由
居抜き物件が安く済みやすい一番の理由は、厨房設備の新規購入費と、内装の解体・造作費の両方を節約できるからです。特に飲食店の厨房機器は、業務用の冷蔵庫やガス台、換気設備など、一つひとつの単価が高いものが多く、これを新調するかどうかだけで数百万円の差が出ることも珍しくありません。ただし、同じ「居抜き」と呼ばれる物件でも、エアコン・座席や机・厨房機器そのものが、どこまで残っているかは物件によって差があります。「居抜き」という言葉だけで判断せず、実際に何が残っているかを一つひとつ確認することが、想定外の出費を防ぐポイントです。
さらに、前のお店が閉店する際には、原状回復(借りたときの状態に戻すこと)の費用がオーナー側・退去する側のどちらかにかかります。設備を残したまま次のテナントに引き継ぐ「居抜き」という形にできれば、退去する側は解体費用を抑えられ、新しく入る側は設備費用を抑えられるという、双方にメリットのある形になります。
「安いから」だけで選ぶと失敗する理由
ここで注意したいのが、居抜きだからといって、必ずしもそのまま使えるとは限らないという点です。飲食店の設備は、業態によって必要な火力や換気能力が大きく異なります。例えば、ラーメン店や焼肉店のような火力・煙・臭いを強く使う業態(重飲食と呼ばれます)と、カフェやサンドイッチ店のような比較的設備の負荷が軽い業態(軽飲食と呼ばれます)とでは、必要な排気・換気の能力がまったく違います。
前のテナントが軽飲食で、自分がこれから重飲食を始めたい場合、残っている設備では火力・換気が足りず、結局は追加工事が必要になることがあります。「居抜きだから安いはず」と思って契約したあとに、追加工事費がかさんで、結果的にスケルトンとあまり変わらない費用になってしまうケースも実際にあります。
契約前に必ず確認しておきたいこと
居抜き物件を検討する際は、契約前に次の点を必ず確認しておくことをおすすめします。
- その物件が「スケルトン」「半スケルトン」「半居抜き」「居抜き」の4段階のどこに当たるのか、動産(厨房機器など)と造作(内装・座席など)それぞれの残置状況を具体的に確認する
- 「スケルトン」と言われた物件でも、ダクト・トイレ・エアコンが残っているか、それともゼロから作る必要があるかを確認する(ここだけで施工費が100万円単位で変わることがあります)
- 残っている設備が、自分の業態(重飲食か軽飲食か)に対応できる火力・換気能力を持っているか
- 設備の所有権(誰のものか)と、故障したときに誰が修理・交換の費用を負担するのか
- ガス容量・水道量・排水量など、店舗のインフラ側の許容量に余裕があるか
これらは、内装業者や不動産会社に現地で確認してもらうことで、契約後のトラブルをかなり減らせます。実際に、内見時は動いていた厨房機器が引き渡し後に動かなかった、エアコンの動力契約がされていなかったなど、居抜き物件では引き渡し後に発覚するトラブルも少なくありません。より詳しい事例はこちらの記事でも紹介しています。
「スケルトン」と「居抜き」は、○×だけでなく「△(物件による)」の項目が多いのが実務のリアルです。自分の業態に合った設備かどうかを事前にしっかり確認し、必要であれば追加工事の費用も見込んだうえで、総額を比較して判断することが大切です。
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よくある質問
Q. 居抜き物件とスケルトン物件、結局どちらが安くなりますか?
A. 一般的には居抜きの方が初期費用を抑えやすいですが、設備が業態に合わない場合は追加工事が必要になり、差が縮まることもあります。
Q. 重飲食と軽飲食は、どこで見分ければいいですか?
A. ラーメン・焼肉・揚げ物など火力や煙を多く使う業態が重飲食、カフェやサンドイッチなど設備負荷が軽い業態が軽飲食です。判断に迷う場合は不動産会社に確認するのが確実です。
