
中古住宅の「手入れ記録」が値段に|国が制度検討開始
中古を安く買えた理由は、売るときに返ってきます
結論を先にお伝えします。2026年10月8日、国土交通省が「第1回 住宅の維持保全・流通に関する制度検討会」を開きました(国土交通省報道発表、2026年10月2日)。ねらいは、建物の品質や性能、手入れ(維持保全)をしてきた実績が、中古住宅の市場でちゃんと値段に反映される仕組みをつくることです。「相場より安いから買ったけれど、この建物、あと何年もつんだろう」——中古を買った方なら一度は思うところだと思います。その答えを「勘」ではなく「記録」で示せる時代に向かっています。今日からできることは3つです。
何が始まったのか
- 発表日:2026年10月2日(国土交通省報道発表)
- 会議の名称:第1回 住宅の維持保全・流通に関する制度検討会
- 開催:2026年10月8日(木)10時〜12時、東京都港区(会議は非公開、資料と議事要旨は後日公開予定)
- 議事:現状と課題および検討の方向性の提示、意見交換
国土交通省は検討の目的を、一定の質が確保された住宅のストックを将来にわたって長く引き継げる環境をつくること、そして中古住宅の買主が安心して取引できる環境を整えることだと説明しています。第1回では、建物の品質・性能や維持保全の実施状況が市場で適切に評価される枠組みづくりという方向性が示されたと報じられています(住宅新報、2026年10月9日)。
背景にあるのは、新築の値段です。近畿圏の新築分譲マンションは、2026年上半期(1〜6月)の平均価格が1戸5,453万円で前年同期比5.7%上昇、㎡単価は98.0万円で、上半期としては1973年の調査開始以来の最高値を6年連続で更新しました(不動産経済研究所、2026年7月21日発表)。新築が届かない価格になれば、人は中古を見ます。だから国は、中古を安心して買える土台を整えようとしています。
すでにある道具を、まだ誰も使っていません
「評価する仕組み」と言われると、これから新しい制度ができるように聞こえます。でも、その土台はもう8年前からあります。建物状況調査(インスペクション)です。
建物状況調査とは、国土交通省が定めた講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)が、柱や梁といった建物を支える部分と、雨漏り・水漏れの状況を、目視と計測を中心に調べるものです。壁を壊したりはしません。
| 時期 | 変わったこと |
|---|---|
| 2018年4月1日 | 媒介契約の書面に「建物状況調査を実施する者のあっせん」の有無を記載する義務。重要事項説明で、調査の実施の有無と結果の概要を説明する義務 |
| 2024年4月1日 | あっせんを「無」とする場合に理由の記載欄が設けられた。鉄筋コンクリート造などの共同住宅は、重要事項説明の対象が「調査から2年以内」のものに限られた |
| 2026年10月8日 | 国が「維持保全の実施状況を市場で評価する枠組み」の検討を開始 |
(出典:国土交通省「既存住宅流通について(建物状況調査(インスペクション)活用に向けて)」、同「第1回 住宅の維持保全・流通に関する制度検討会」)
言葉を1つかみ砕きます。媒介契約とは、不動産会社に「この物件を探してください」「売ってください」とお願いする契約のことです。その契約書に、調査してくれる人を紹介できるかどうかを書く欄があります。2024年4月からは、紹介しないと書くなら、その理由も書かないといけなくなりました。
つまり、買主が「紹介してください」と言える制度は、すでに手元にあるのです。
投資家が今日からできる3つのこと
「あっせん」欄を見て調査を入れる
工事の記録を1冊にまとめる
その記録を根拠として示す
① 買う前:媒介契約の「あっせん」の欄を確認する
契約書のその欄が「無」になっていたら、理由を読んでください。納得できなければ「有」にしてもらえばよいだけです。鉄筋コンクリート造の区分マンションを買うときは、すでにある調査結果が2年以内のものかどうかも確認してください。古い結果は重要事項説明の対象から外れています。
大事な注意点
建物状況調査は、不具合があるかないかを判定するものでも、不具合がないことを保証するものでもありません(国土交通省)。「調査を受けたから安心」ではなく、「次の大きな出費がいつ来そうかを前倒しで知る」道具だと考えてください。検査に合格した住宅を対象に、引渡し後に見つかった不具合の補修費用を保険でまかなう「既存住宅売買瑕疵保険」という仕組みもあります(国土交通省)。
② 持っている物件:工事の記録を1冊にまとめる
今回の検討会のねらいが「維持保全の実施状況の評価」である以上、将来値段の根拠になるのは書類です。やることは地味です。
- ☐ 見積書・請求書・領収書を工事ごとに保管している
- ☐ 設備の保証書とメーカー・型番が分かる
- ☐ 外壁や屋根の塗り替え、防水をいつやったか年月で言える
- ☐ 給湯器・エアコン・給排水管の交換年月を記録している
- ☐ 建物状況調査や耐震診断を受けた報告書がある
- ☐ 管理組合の長期修繕計画と修繕履歴の写しを持っている(区分の場合)
③ 売るとき:記録は値引きを防ぐ材料になります
買う側の立場で考えると分かりやすいと思います。履歴が何も出てこない物件は、見えない出費を見込んで値を引きます。逆に「3年前に防水をやりました、これが報告書です」と出せる物件は、引く理由が減ります。手入れの記録は、値引き交渉の材料を相手から取り上げる働きをします。
大阪は古い建物のストックが多い地域です。府内の分譲マンション約76万戸のうち、約15万戸が旧耐震基準で建てられています。この点は旧耐震15万戸の大阪、10月下旬に耐震診断の新制度で詳しく扱いました。古い建物が多い地域ほど、「記録のある物件」と「ない物件」の値段差は開きやすくなります。賃貸にまわしている物件の修繕費の考え方は、賃貸の修繕費は月いくら?国が長期修繕計画を見直しもあわせてご覧ください。
なお、制度の内容はこれから議論されます。期限や要件が決まったわけではないので、最新情報は国土交通省の公表資料で必ず確認してください。
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まとめ
国は2026年10月8日、中古住宅の品質と手入れの実績を市場で評価する仕組みの検討を始めました。新しい制度を待つ必要はありません。媒介契約の「あっせん」の欄を確認して建物状況調査を入れる、工事の書類を1冊にまとめる、この2つは今日からできます。安く買えたことを「掘り出し物」で終わらせるか、記録で裏づけられた資産に変えるかは、買ってからの手間の差です。
よくある質問
Q. 建物状況調査を受ければ、その物件は安全だと保証されるのですか。
A. いいえ。国土交通省も、不具合の有無を判定するものではなく、不具合がないことを保証するものでもないと明記しています。将来の出費を前倒しで知るための調査です。
Q. 買うときに調査を頼みたいのですが、言い出しにくいです。
A. 媒介契約の書面には、調査者を紹介できるかどうかを書く欄があります。制度として用意されている手続きなので、遠慮なく確認して構いません。
Q. 修繕の記録なんて、残しておいて意味があるのでしょうか。
A. 国は維持保全の実施状況を市場で評価する枠組みを検討しています。売却時に根拠を示せる物件は、値引きの材料を減らせます。
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