
「家賃値上げ」管理会社に丸投げNG?罰金300万円の線引き
結論から申し上げます。家賃の値上げは、管理会社に「あとはよろしく」と丸ごと任せることができません。入居者との交渉を管理会社が代わりに引き受けると、弁護士法違反(いわゆる「非弁行為」)になるおそれがあるためです。「家賃を上げたいだけなのに、なんでこんなに面倒なのか」と感じている家主さんは多いのではないでしょうか。ですが手順を知っておけば、もめずに進められます。
2026年10月4日、不動産投資の情報サイト「健美家」が、家賃改定を管理会社に丸投げすることのリスクを取り上げました。借地借家法と弁護士法という2つの法律がからむ話です。順番に見ていきます。
家賃の値上げ自体は、法律で認められています
まず前提です。借地借家法という法律の第32条1項には、こう書かれています。固定資産税などの負担が増えたとき、土地や建物の値段が上がったとき、または近くの似た建物の家賃と比べて安すぎるときは、オーナーは将来に向かって家賃の増額を請求できる、という内容です。
つまり「値上げをお願いすること」そのものは、法律が認めた正当な行為です。ここは遠慮しなくてよい部分です。
問題は「誰が交渉するか」です
ところが、交渉を誰がやるかという点には、はっきりした線があります。弁護士法の第72条は、弁護士でない人が、報酬をもらう目的で、争いになりそうな案件の交渉を代わりに行うことを禁じています。
「非弁行為」とは
弁護士でない人が、報酬を得る目的で、法律上の争いに関する交渉や和解を代わりに行うことです。これを破ると2年以下の拘禁刑(2025年5月までは「懲役」と呼ばれていた刑)または300万円以下の罰金の対象になります(弁護士法77条)。
実際に有罪になった例もあります。最高裁は2010年(平成22年)7月20日の決定で、ビルの立ち退き交渉を仕事として引き受けた不動産業者について、「交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」にあたると判断し、弁護士法72条違反の有罪を確定させました(三井住友トラスト不動産の解説による)。
家賃の値上げも同じ構図になりえます。入居者が「そんなの払えません」「納得できません」と言えば、そこから先は争いです。管理費という報酬をもらっている管理会社が説得役を引き受ければ、立ち退き交渉と似た立場に立ってしまいます。管理会社が渋るのは、やる気がないからではなく、法律上やれないからという場合があるのです。
誰がどこまでできるのか
| やること | オーナー本人 | 管理会社 | 弁護士 |
|---|---|---|---|
| 値上げの案内文を出す | ○(名義は必ずオーナー) | 書面づくりの補助・投函は可 | ○ |
| 近隣の家賃相場の資料を集める | ○ | ○(最も得意な分野) | △ |
| 入居者を説得する・条件を詰める | ○(自分のことなので可) | 争いになる見込みなら不可 | ○ |
| 合意した内容を覚書にする | ○ | 書面づくりの補助は可 | ○ |
| 合意できず調停・裁判になった | 代理は頼めない | 不可 | ○ |
(弁護士法72条・77条および借地借家法32条をもとに作成。△は資料収集を主業務としないという意味です)
この表を見ると、管理会社に任せられる範囲が意外と広いことも分かります。相場の資料集めと書面づくりは、むしろ管理会社の本業です。「交渉の代理だけが頼めない」と整理しておけば十分です。
オーナーがふむ3つの手順
根拠をそろえる
オーナー名義で
案内を出す
覚書を交わす
①では、固定資産税がいくら増えたか、修繕にいくらかかったか、近隣の同じような部屋がいくらで募集されているかを、紙にまとめます。②の案内文は、改定日の3か月前までに出すのが実務上の目安です。差出人は管理会社ではなく、必ずオーナー(賃貸人)の名義にします。③で合意できたら、口約束で終わらせず覚書を作り、連帯保証人や家賃保証会社にも通知します。
案内を出す前のチェックリスト
- ☐ 賃貸借契約書に賃料改定の条項があるか確認した
- ☐ 前回の改定から何年経っているか確認した
- ☐ 近隣の同種物件の募集家賃を調べた(管理会社に依頼可)
- ☐ 固定資産税・修繕費がいくら増えたか説明できる
- ☐ 案内文の差出人がオーナー(賃貸人)名義になっている
- ☐ 改定日の3か月前までに出せる日程になっている
- ☐ 連帯保証人・家賃保証会社への通知を予定に入れた
納得してもらえなかったら、どうなるのか
ここが一番大事な部分です。借地借家法32条2項には、増額について話がまとまらないときは、請求を受けた側(入居者)は、増額を正当とする裁判が確定するまでは「相当と認める額」を払えばよい、と書かれています。
かみ砕くと、案内を出しても、入居者が納得しなければ、今の家賃を払い続けてよいということです。「通知を出せば翌月から上がる」わけではありません。だからこそ、①の根拠づくりと、相手に納得してもらう段取りが効いてきます。
なお、「価格交渉促進月間」大阪家主が管理会社を点検する4つの視点でも触れたとおり、値上げの話を持ち出すなら、設備の改善など「払う側の納得材料」を同時に用意できているかが分かれ目になります。
サブリースなら話は別、ただし別のリスクが
管理会社が物件を借り上げて入居者に転貸する「サブリース」の形であれば、管理会社自身が貸主です。自分の契約の交渉なので、非弁行為にはあたりません。
ただし立場が逆転する点に注意してください。借地借家法32条は、貸主と借主のどちらからでも使えます。つまりサブリースでは、管理会社の側からオーナーに賃料の減額を請求してくることもあります。交渉の手間が消える代わりに、別の交渉相手を抱えることになる、と理解しておくのが安全です。
相続で物件を引き継いだばかりの方へ
親や祖父母の物件を急に引き継ぎ、「家賃が相場より安いのは分かるが、何から手をつければいいのか分からない」という方もいらっしゃいます。この分野は書面の順番と名義がものを言うので、一人で抱え込まず、地域の事情に詳しい不動産会社に早めに相談していただくのが確実です。管理会社の元社員が着服!大阪のオーナーが今すべき点検でも書いたとおり、任せきりにせず、書面で残す習慣が資産を守ります。
管理会社選び・相続した物件のご相談はこちら
家賃改定の進め方や管理会社との契約内容の確認、管理会社選び・見直しでお悩みのオーナー様はもちろん、ご実家や親族の物件を相続したものの何から手をつければよいか分からないという方も、株式会社不動産スペースまでお気軽にお問い合わせください。
株式会社不動産スペース
TEL:06-6195-8209
よくある質問
Q. 家賃を上げたら入居者が逃げるんじゃないかと不安です。
A. 退去されても、相場が上がっていれば次の方に今の家賃で貸せる可能性があります。まず近隣の募集家賃を調べ、入れ替えた場合の収支と比べてから判断してください。
Q. 管理会社が「交渉は当社でやります」と言っています。任せてよいのでしょうか。
A. 争いに発展しそうな交渉の代理は弁護士以外にはできません。資料づくりと事務連絡までを管理会社に、対立したら弁護士に、と役割を分けるのが安全です。
Q. 案内を出したのに、入居者が今までの家賃を払い続けています。受け取ってよいですか。
A. 借地借家法32条2項により、裁判が確定するまでは入居者は相当と認める額を払えば足ります。受け取ること自体は問題になりにくいですが、「不足分は別途ご請求します」という意思を書面で残しておくのが安全です。
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