
旧公庫融資のアパート、礼金・更新料は受け取れません
結論を先にお伝えします。昔の住宅金融公庫(いまの住宅金融支援機構)からお金を借りて建てた賃貸住宅は、返済が終わるまでの間、入居者から礼金・更新料・権利金を受け取ることができません。関西で長く慣習になってきた「敷引き(保証金の一部を返さない取り決め)」も認められていません。そして機構はいま、約束が守られているかの実態調査を進めています。「親から引き継いだアパートだから、昔どんな条件でお金を借りたのかなんて聞いていない」——そういう家主さんは、決して少なくないはずです。心当たりのある方は、今日のうちに融資の書類を探してみてください。
何が起きているのか
- 2026年4月24日、住宅金融支援機構が「旧住宅金融公庫融資賃貸住宅における制限事項に係る対応について」というお知らせを公表し、実態調査を行っていること、違反があれば是正を求めることを明らかにしました(住宅金融支援機構)。
- 2026年10月5日、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会がこの内容を会員向けに改めて周知しました(同協会トピックス)。同じ日に各地の宅地建物取引業協会も注意喚起を出しています。
- 機構は、過大な敷金の徴収や礼金の受領といった違反が見られるとしています。会計検査院の令和2年次・令和3年次の検査でも、同様の違反が指摘されました(住宅金融支援機構)。
どのくらい見つかっているのか。会計検査院の令和2年度決算検査報告では、実地に調べた37件のうち17件で違反が確認されました(会計検査院、令和2年度決算検査報告)。
| 違反の内容 | 件数 |
|---|---|
| 礼金の受領 | 12件 |
| 退去月の家賃を日割り計算しないなど、入居者への不当な負担 | 8件 |
| 敷金の過大受領 | 4件 |
| 更新料を受け取る取り決め | 4件 |
| 敷引きの設定 | 3件 |
(出典:会計検査院「令和2年度決算検査報告」。1つの物件で複数の違反があるため、合計は17件を超えます)
借受者は個人が13件、法人が4件で、個人の家主が大半でした。近畿支店管内でも2件が挙がっています。
対象になるのは、平成18年度(2006年度)以前に旧公庫へ建設資金の借入れを申し込んだ賃貸住宅です。「そんな昔の融資、もう終わっているのでは」と思われるかもしれません。ところがこの融資は償還期間が35年などの長期資金です。会計検査院が指摘した17件の貸付年月は平成7年12月から平成17年5月で、令和元年度末でもまだ残高がありました。1990年代に建てた物件でも、返済中なら今もこの約束が生きているということです。
「特優賃」とは別の話です
ここで混同しやすいのが「特優賃(特定優良賃貸住宅)」です。こちらは平成5年の法律にもとづく補助の制度で、家賃補助は最長20年、管理期間も都道府県が10年から20年の範囲で定めます。期間が満了して普通の賃貸住宅に戻った物件が多く、最近はあまり見かけません。
一方、今回の制限事項は融資を返済している間ずっと続く約束です。両方が重なっている物件もありますが、「特優賃の期間が終わったから自由になった」とは限りません。判断の分かれ目は、特優賃の認定ではなく融資の返済が終わっているかどうかです。
昭和・平成に親や祖父母が建てた物件を相続で引き継いだ方は、特に確認が必要です。
受け取ってはいけないお金
「制限事項」は、お金を借りるときの契約書(金銭消費貸借契約)に書かれています。要点は次の3つです。
- 礼金・権利金・謝金・更新料を受け取らない(更新の事務手数料は別扱い)
- 敷金は上限の範囲内まで
- 入居者に不当な負担をさせない(敷引き・償却、自然な傷みの分まで含めた原状回復費の全額負担、現入居者への鍵交換費用の付け替え、解約の申し入れを1か月より前に求めることなど)
敷金の上限は、借りた融資の種類で変わります。
| 融資の種類 | 敷金の上限 |
|---|---|
| ファミリー賃貸住宅融資 | 家賃の3か月分 |
| 単身・少人数世帯向け賃貸住宅融資 | 家賃の3か月分 |
| 中高層ビル融資 | 家賃の6か月分(近畿圏の一部地域は9か月分) |
| レントハウスローン | 家賃の6か月分(近畿圏の一部地域は9か月分) |
(出典:住宅金融支援機構「旧公庫融資賃貸住宅の賃貸借契約に関する制限事項」)
近畿圏だけ上限が9か月分まで認められているのは、関西に保証金・敷引きの慣習が根づいていた事情を踏まえたものと考えられます。ただし上限が緩いのは「敷金」だけで、敷引きそのものは認められていません。大阪では更新料をとらない物件が多いので更新料では引っかかりにくい一方、礼金と敷引きはまさに関西の定番です。ここが一番の注意点です。
今日からできる4つの手順
融資の種類を確かめる
募集条件を見直す
契約書のひな形を直す
迷う点は機構に聞く
まずは金銭消費貸借契約書や返済予定表を探します。見つからない場合、管理会社に「この物件は旧公庫融資の返済中ですか」と聞くのが早道です。管理会社が把握していないこともあるため、管理会社の処分歴は、1分で調べられますでご紹介した確認の習慣と同じように、書面で質問して書面で答えをもらっておくと安心です。
点検チェックリスト
- ☐ 募集条件に礼金が付いていないか
- ☐ 更新料を受け取っていないか(事務手数料は除く)
- ☐ 敷金・保証金が上限(3か月/6か月/近畿圏の一部は9か月)を超えていないか
- ☐ 敷引き・償却の特約が残っていないか
- ☐ 自然な傷みの分まで入居者負担にしていないか
- ☐ 鍵交換費用を退去する入居者に負担させていないか
- ☐ 解約の申し入れを1か月より前に求めていないか
相続で物件を引き継いだばかりの方へ
「何から手をつければいいのか分からない」という状態で、20年以上前の融資契約まで調べるのは、正直かなりの負担です。一人で抱え込まず、地域の事情に詳しい不動産会社に早めに相談してください。礼金を外しても、その分を家賃に織り込めるかどうかは相場次第です。賃料収入を落とさずに条件を組み替える方法は、必ずあります。修繕の積み立てとあわせて考えたい方は、賃貸の修繕費は月いくら?国が長期修繕計画を見直しもご覧ください。
管理会社選び・相続した物件のご相談はこちら
旧公庫融資の条件確認や募集条件の見直し、管理会社との契約内容の点検でお悩みのオーナー様はもちろん、ご実家や親族のアパートを相続したものの何から手をつければよいか分からないという方も、株式会社不動産スペースまでお気軽にお問い合わせください。
TEL:06-6195-8209
まとめ
旧公庫融資を返済中の賃貸住宅では、礼金・更新料・敷引きを受け取れません。機構は実態調査を進めており、違反があれば是正を求めています。罰則の有無は公表されていませんが、入居者から機構に相談が入る窓口も用意されています。慣習で続けてきた条件が、実は契約違反だったという事態を防ぐために、まずは融資の書類を探すところから始めてください。
よくある質問
Q. 親のアパートを相続しました。公庫で借りていたかどうか、どう調べればいいですか。
A. 金銭消費貸借契約書や返済予定表を探すのが確実です。見つからない場合は管理会社に確認し、それでも分からなければ機構まちづくり融資部(03-5800-8150)に問い合わせてください。
Q. もう礼金を取ってしまっています。どうなるのでしょうか。
A. 機構は借入者に速やかな是正を求めています。まずは募集条件と契約書のひな形を直し、対応に迷う点は機構に相談してください。
Q. それって特優賃の話じゃないんですか。もう見かけませんけど。
A. 別の制度です。特優賃は補助の制度で管理期間は最長20年ですが、今回の制限は融資の返済が続く間ずっと有効です。償還期間は35年などの長期なので、1990年代の物件でも返済中のことがあります。
Q. ハウスクリーニング代も請求できないのですか。
A. 特約に明記し、入居者の事前同意を得ている場合は認められています。口約束のままにせず、契約書の文言を確認してください。
関連記事
- 管理会社の処分歴は、1分で調べられます
- 「家賃値上げ」管理会社に丸投げNG?罰金300万円の線引き
- 賃貸の修繕費は月いくら?国が長期修繕計画を見直し
- 賃貸住宅管理業の登録更新2026、大阪オーナーの点検法
